世界の人形館からの夢メッセージ

夢と寛ぎを紡ぐワールドスクエア
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尖閣諸島と世界の「実効支配」例
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 領有権を巡り、日中両国間の火薬庫にもなりかねない国境の島、尖閣諸島。沖縄県石垣市の同諸島を東京都として買い取るとの石原慎太郎知事の発言が、内外で波紋を投げかけている。
 1972年9月、田中角栄首相・周恩来首相の日中首脳会談で尖閣諸島問題は先送りされ、歴史的な日中国交正常化に至った経緯がある。その頃、田中政権に反発したのが右派の若手集団「青嵐会」で、幹事長は石原氏であった。その後、自民党総裁選に出て首相を夢見たが、敗れて都知事に転向した。若き頃は格好いい太陽族の象徴的存在であっただけに、総裁選で味わった挫折感が心底に残ったと言われ、「政府に吼え面をかかせてやる」と言い放った背景になったかも知れない。

 恥ずかしながら実は、国防上、或いは資源的にも、我が国にとっては非常に重要な尖閣諸島は、今までてっきり日本国の国有地と思っていた。それが5島のうち、4島が私有地とは些か驚きだ。
 
 尖閣諸島は沖縄本島からも、中国本土の福州からも、共に400kmほどの距離にある。中国が国土の一部と考えている台湾からは、わずか約200kmしか離れていない。諸島は3.82k屬般明僂最大の魚釣島、1k屬發覆ざ緇貪隋南小島、北小島、大正島の合計5島と岩礁群から構成される。

 歴史的には、1895年に明治政府が標杭を立てて領土に編入。翌年には魚釣島など4島を古賀氏という民間人に貸与し、1932年には有償で払い下げした。その間、島々ではリン鉱石や羽毛の採取、かつお節製造などの事業が行なわれ、最盛期にはおよそ250人が生活した由。
 その後、4島は第三者に売られ、今はさいたま市の男性とその親族が所有しているとか。4島の内、魚釣島と南・北小島の3島は、2002年から2450万円の年間賃料で日本政府が借り上げている。一方、九場島は1972年から駐留米軍の訓練用として、防衛省が賃貸借契約を締結。因みに、大正島のみは国有地になっている。

 石原知事の奇策、或いは挑発とも思えるアイディアは、領土問題にのん気で鈍感そうな政府に対する大いなる警鐘になろう。島が民有地のままでは、あらぬ先に売り飛ばされる恐れもある。実際に350億円でどうかとの話もあるそうだが、本当に領土を守るためには東京都ではなく、国が買い取るのが至極当然であろう。
 中国や台湾が領有を主張し始めたのは、周辺の海底資源が注目を浴びた1970年頃だ。数年前より中国の漁船や監視船が出没し、日本の実効支配に揺さぶりをかけている。歴史的にも、国際法的に尖閣諸島が我が国のものであると言っても、現在は無人島だ。そこに建物などを建て人を住まわせなければ、真の実効支配にならない。

  
  尖閣諸島周辺の地図   遠くに魚釣島を望む  南小島より北小島を望む
                (インターネットより転用)


 今回の尖閣諸島問題で浮き彫りにされた実効支配は、この世界には数多くの実例がある。245国・地域を旅した私ことワールド・トラベラーは、数多くの実効支配された国や地域を訪れ、日本ではあまり知られざるその実情を垣間見て来た。

 例えば、中東・アフリカでは、先ず、2005年2月に訪れた北キプロスがある。東地中海にポツンと浮かぶキプロス島は、古代文明の十字路になった太陽と神話の小さな島国である。山形県と同じ広さの島内は、1974年から多数派のギリシャ系(島の南部)と少数派のトルコ系(島の北部)に分断されている。1999年3月に訪れた(南)キプロスはギリシャが支援し、世界各国が承認している。しかし、トルコが実効支配する北キプロスは国際的に認められていないが、トルコの強力な支援を受けた国造りが進んでいる。首都は南北共通のレフコシアでニコシアという別名を持つ。

 トルコのイスタンブールから現地入りしたが、入国手続きも簡単でトルコの国内旅行をしているかのような感じであった。見どころは意外に多い。フェニキア時代から貿易港として繁栄したギルネの港にどっしりと構えて建つギルネ城、その南郊外にある断崖絶壁に建つ美しいベラパイス修道院、同じく郊外の標高730mの急勾配の山腹にへばり付くようにして建つ聖ヒラリオン城、ギリシャ神話にも登場する聖パウロ伝道の地で有名なサラミス遺跡などがある。

 2005年12月に旅した西サハラは、モロッコの南にある。国際法的に帰属が未定になっているため、地図では国として明記されておらず、モロッコとの国境も点線になっている。世界広しと言えども、独立するのか或は独立しないでモロッコの一部になるのか、国の帰属が依然として決まらないのは西サハラだけである。
 1934年スペイン領として総督の支配下になったが、1975年マドリード協定によりスペインは撤退。1976年にモロッコとモーリタニアが分割統治した後、紛争地域として国連の監視下に入ったと言うのが旅行前の事前情報であった。日本の外務省に電話しても、西サハラについては何も知らないとのつれない回答。

 一方、いまだに大量の地雷が埋設されていると聞かされ、緊張感が張り詰めたリスキーな旅となった。もちろん日本の旅行者を見かけることもなかった。確かに検問が多かったが、モロッコの通貨が使われたり、各所でモロッコ国王の写真が掲げられたりして、全てがモロッコ化されているお陰で当初懸念していたほど治安は悪くなかった。
 要するに西サハラの実態は、「モロッコ王国の西サハラ州」であり、正に”百聞は一見にしかず”を体感した収穫の多い冒険旅行であった。但し、観光的には特に見るべきものは無かった。

  
  キプロス:ギルネ    西サハラ:ホテル ソマリランド:ハルゲイサ
  旧港を散策する筆者    の従業員と     郊外で放置された戦車


 「東アフリカの角」と呼ばれ、海賊がよく出没するので悪名高いのがソマリア。無政府状態にあるためビザも取得できず、治安も当然悪いので同国への旅行を諦めていた。
 ところが、2007年2月〜3月アフリカ諸国を旅行中にドイツ人の観光客から、「北部のソマリランドなら問題ない」との情報を入手、赤道ギニアやエチオピアの日程を短縮してソマリランド行きを決意。
 同地域の首府ハルゲイサに便を出しているエチオピア航空からアジスアベバにソマリランド大使館がある事を聞き出し、急遽ビザを取得しその日にハルゲイサへ飛んだ。

 現地に着いてみる尖閣と武装兵士はまったく見かけず、拍子抜けするほど平和であったが、ハルゲイサ郊外では内戦時の戦車が放置されていた。ソマリランド独自の紙幣が発行されるなど、国際的には未承認だが、一応国家としてちゃんと機能している「半独立国家」の実情に驚いた。
 また、現地入り後に、ソマリアが南部のモガディシュを中心とするソマリア民主共和国の暫定政府と北部のソマリランドの他に、中部のプントランド、南部の内陸地域バイドアに拠点を置く南西ソマリア、ケニアとの国境に近いジュバランドなどの自治政権があり、5つの政権が群雄割拠するソマリア民主共和国の複雑さを知らされた。

 アジアでは、インド、パキスタン、中国が実効支配するカラコルム山脈麓のカシミールがある。カシミール地方の領有を巡る紛争は、1947年8月英領インドからインドとパキスタンが分離独立以来続く長年の係争だ。過去3次にわたる印パ戦争が勃発したが、うち2回はカシミール問題が原因であった。
 独立前の両国には多くの藩王国があったが、独立時にカシミール藩王国は住民の8割がイスラム教徒であるので回教国パキスタンヘの帰属が順当であった。しかし、ヒンズー教徒の藩王がインドへの帰属を望んだため、パキスタンは武力介入に乗り出したのが発端で両国は対峙して来た。

 パキスタン領は1998年7月、インド領は2008年7月に旅した。アーザード・カシミールと呼ばれるパキスタン領では長寿の里で知られる桃源郷フンザや磨崖仏があるギルギットなど、ジャンム・カシミールと言うインド領では、ハウスボートで泊まったダル湖があるシュリナガルや乗馬を楽しんだ郊外のソーナマルグ、チベット仏教が息づきゴンパと言う僧院が多いラダック地方のレーなどが印象的であった。
 このカシミールに比較的近いアフガニスタンは2007年4月に旅行したが、一時は過激なイスラム原理主義のタリバンが実効支配していた。お目当てのバーミヤン大仏は、タリバンによって無残にも破壊されていた。

  
パキスタン領カシミール インド領カシミールの アフガニスタンのバーミヤン
 桃源郷フンザの郊外   レー 郊外ヘミス・ゴンパ大祭  大仏があった前で 


 上記の他に、世界には実効支配の具体例がいくつもある。例えば、1994年12月に訪れたイスラエルのエルサレム、1995年2月に南極探索の帰途に寄ったイギリスが実効支配するフォークランド諸島(アルゼンチン名はマルビナス諸島)など。

 1998年5月に回ったアルメニア、アゼルバイジャン、グルジアのコーカサス諸国は、万年雪を頂くコーカサス山脈、美しい修道院、見渡す限りの豊かなブドウ畑など一見平和そうな見どころが多い。だが、政情は複雑で不穏だ。
 例えば、アゼルバイジャン国内にあるナゴルノ・カラバフ自治州がアルメニアの実効支配下にあり、グルジア国内にあるアブハジア自治共和国南オセチア共和国がロシアの支援をうけ、独立状態にある。

 今一度ここで実効支配とは何か確かめて置きたい。実効支配 Effective Controleとは一般的に、ある国や勢力が、対立する国や第三国の承認を得ないまま、軍隊駐在などにより一定領域を実質的に統治することである。
 今後尖閣諸島の4島が都或いは国の所有地になっても、登記上持っているだけ、つまり名目支配は不安である。やはり、諸島に建物などを建て、人を常駐させなければ本当の意味での実効支配にはならない。


  
フォークランド諸島:ポート  イスラエル:エルサレム グルジア:ムツヘタの
スタンレーで英軍兵士と    の嘆きの壁で     ジュワリ修道院 


 日本付近でも実効支配の例がある。北海道の根室沖に浮かぶ北方領土、即ち歯舞群島色丹国後島択捉島はロシアの積極的な投資によって、ロシア化が着実に進んでいる。2009年6月に北方4島を管轄するサハリンを訪れたが、ロシア化の厳しい現実を目の当たりにした。このサハリンも南半分の旧樺太が、実効支配されている。
 5月に再びロシア大統領に復帰するプーチンは、柔道家らしく「領土問題は引き分け」と言っている。しかし、同氏の意味する引き分けは、4島の半分の2島返還ではなく、1島すらも返還しない現状維持かも知れないと懸念する。

 我が国と韓国がそれぞれ領有権を主張している竹島(韓国名:独島・ドクト)は、1905年に島根県に編入されたが、1954年から韓国が不法占拠を続けていると聞く。この不法占拠も年月が経てば既成事実となり、いずれ相手国の正式な領土にもなりかねない例が世界にはいくつもある。
 同国は漁業経済価値と排他的経済水域問題で同島を重要視し、既に宿舎・灯台・ヘリポートなどを建設。さらに、武装警察官40名と、灯台管理職員3名が常駐と聞く。実効支配が着々と進んでいる現実を直視すると、どう見ても日本側には歩が悪い。

 厳密に言えば、1974年4月以来度々訪韓している韓国と、1995年4月〜5月に訪れた北朝鮮の両国は、北緯38度線沿いの軍事境界線を境とした朝鮮半島全域をお互いに実効支配している。
 一方、中国(中華人民共和国)と台湾(中華民国)の両者は、中国は中華人民共和国により、台湾は中華民国によりお互いに実効支配されていると受取っているようだ。
 因みに、中国は1993年9月以降20回ほど、台湾は1971年4月以来6回訪れており、共に大好きな国・地域だ。

  
韓国と北朝鮮国境:板門店   北方領土:択捉島     竹島(独島)
(軍事停戦委員会議場)       (インターネットより転用)


 とにかく、石原都知事はよくぞ言ってくれたとその男気に拍手喝采したい。しかし、都にしても、政府にしても尖閣諸島を買い取るだけでは、詰めの甘い素人将棋になる。所有者から買取後は、韓国が竹島で実効支配するようにすべきである。即ち、速やかに建物などを建設し、必要な人員を常駐させることが焦眉の急であろう。
 国土防衛のためばかりではなく、外交問題処理の実務として当然のプロフェッショナルな対応が不可欠になる。
 
 43年間にわたり全世界を制覇し、実行支配の具体例を数多く見てきたワールド・トラベラーとして痛感する率直な提言であり、関係筋への警鐘でもある。過日仲間入りした後期高齢者の痴呆症気味の戯言ではないかと、無視してもらいたくはない。

 隣人国との友好が重要なこと言うまでもないが、腫れ物に触るようないつもの弱腰外交では、相手国が踏み込んで来る恐れがある。国の根幹となる主権についてはきちんと筋を通し、問題点はお互いに腹を割って徹底的に話し合うのを、日本国民はもちろん、世界も注視しているであろう。果たして我が政府や日本の政治家の諸先生に、そのような頼もしく、度胸と信念のあるリーダーがいるのであろうか? 

 最後に、日本外交問題の根源は必ずしも我が国の政治家の国際的資質だけではなく、新聞などのメディア関係者の国際経験不足と外交オンチにも起因すると申し上げたいが、不適切であろうか?

(後記)
 2012年9月11日に個人の私有地であった尖閣諸島の3島(魚釣島、北小島、南小島)が、20.5億円で日本政府によって購入された。この国有化後直ぐに中国側が反発し、日中間の火種となった。

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

筆者のプライベート・ミュージアム、世界の人形館
は、245カ国・地域の民俗人形、紙幣とコイン、仮面、壷、置物、絵画、木彫り、地球儀、壷、時計、照明ランプ、絵皿、万華鏡などを展示しています。ご興味ある方はご遠慮なくご来館下さい。お待ちします。但し、セキュリティなどのため、下記要領で予約をお願いします。
 TEL:04−7184−4745 又は Eメール:
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世界に関する事であれば、ワールド・トラベラーとして何でも講演します。ご希望があれば、ご連絡下さい。慈善活動のため、謝礼は不要です。但し、ご希望の趣旨が筆者の理念等に反する場合は、お断りすることもあります。予めお含み置き下さい。


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    こんにちわ~♪

    先日は私のブログに訪問して
    コメントを残して下さりありがとうございます♪
    簡単な料理しか紹介していませんが
    こちらこそ宜しくお願い致します!!
    | マムチ | 2012/04/24 3:52 PM |
    マムチさん
    早速のコメントを深謝します。
    写真がとても綺麗なマムチさんのグルメ・ブログが心を癒し、
    とても気に入っています。
    一方、小生のブログはご覧の通りハードなものが多いですが、
    少しでもソフトにしようと魅力的な写真挿入にこだわっています。
    今回の実効支配から全くかけ離れた世界のお料理につき、
    いずれ書き込みます。ご期待下さい。
    | | 2012/04/24 9:43 PM |
    勉強させて頂きました。現政府の総理は何をどうしようとするつもりか、全く分かりません。防衛大臣のあの様は何でしょうか。メモになければ実効支配なんて言葉も分からないのではと案じて仕舞います。
    | 相子 | 2012/04/26 7:14 PM |
    あい子さん
    ご丁寧なコメントを多謝しますと共に、
    いつもながら的を得たボヤキに感心します。
    本日は小沢氏無罪の判決が出ましたが、
    日本の主権を確固たるものにする政局にして頂きたいものですね。
    | | 2012/04/26 8:49 PM |
    ワールドトラベラーさんの奥の深さに感心しています。
    また、いろいろと勉強しました。
    特に実効支配の説明は具体的で、分かりやすいです。
    今後とも国際問題を易しく、解説してください。
    よろしくお願いいたします。
    | 田中 | 2012/05/03 6:32 PM |
    過分のコメント、有難うございます。
    私も単なる物見遊山で旅するのではなく、
    最近は国際問題や外交なども意識して、
    海外旅行するよう、心掛けています。
    一方、今後講演を増やすなどPRの機会を
    増やしたいと考えています。
    | ワールド・トラベラー(高) | 2012/05/03 8:14 PM |
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