世界の人形館からの夢メッセージ

夢と寛ぎを紡ぐワールドスクエア
明治の産業革命遺産の世界遺産登録と危機遺産を訪ねて
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 ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産が日本でまた誕生した。オメデタイことである。昨5日ドイツのボンで開催中のユネスコの世界遺産委員会は、我が国が推薦した「明治日本の産業革命遺産」(福岡など8県11市23施設)を世界文化遺産に登録を決定。韓国が「強制徴用」をめぐり、反対活動を展開したが、ぎりぎりの協議の末に登録にこぎつけた。
 これは「富士山」(山梨、静岡)、「富岡製糸場と絹産業遺産群」(群馬)に続いて3年連続で、日本の世界遺産は文化遺産が15件、自然遺産が4件の計19件となった。国別の世界遺産登録数では、トップのイタリア49件に遙かに及ばないが、アメリカに次いで11位ぐらいにランクされる。

 
産業革命遺産は19世紀半ばから20世紀初頭にかけ、日本の近代化を牽引した重工業分野の施設で構成される。「軍艦島」の通称で知られる端島炭坑(長崎市)などのほか、官営八幡製鉄所の修繕工場(北九州市)、三菱長崎造船所のクレーン(長崎市)といった100年以上経っても稼働中の施設も含まれる。
 審査は当初より1日遅れたが、これは韓国側の発言内容を巡り日韓の調整が難航したためだ。委員会開催に先立ち、韓国側は八幡製鉄所など7施設で「戦時中に朝鮮人労働者が強制徴用されていた」と主張して反対活動を展開し、「強制徴用」の歴史を施設の説明に反映させるよう求めていた。日本は韓国の主張を踏まえ、歴史的な事実関係の範囲内で明示するとの立場を示した。

  
 
        端島炭坑(軍艦島)            八幡製鉄所の修繕工場
                 (インターネットより転用・加工済み)


 今回の審議を紛糾させたのは、日韓両国の歴史認識の問題が中立であるべきユネスコに持ち込まれたことであろう。互いに他国の支持を得ようと奔走した両国の外交戦略に、他の委員国はさぞ迷惑したであろう。神聖とも言うべき世界遺産にまで政治介入の触手が伸びたことは、まことに遺憾である。もっとも世界遺産を巡る対立は今回が初めてではない。何度も審議されたイスラエルの「ダンの三連アーチ門」は、ヨルダンの反対で未だに登録されていない。
 一方では、ユネスコ最大のスポンサーが実質的に我が日本であることを知る人は少なかろう。全体の19%、年間約36億円を負担する日本はアメリカに次ぐ2位だが、同国が分担金をきちんと払わないため日本が実質的にトップの実情とか。また、韓国は我が国の10分の1程度であることを考えると、ユネスコの世界遺産でも我が国の外交下手が際立っていると言わざるを得ない。

 日本政府は来年、「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」(長崎県と熊本県)の世界文化遺産登録も目指しているそうだが、貴重な世界遺産が粗製濫造にならないよう望みたい。いったん登録されたが問題がその後発生し、危機遺産になったものや登録が抹消された遺産もある。例えば、最近シリアでイスラム過激派組織、イスラム国(IS)の支配下に入ったパルミラ遺跡などである。
 私こと
ワールド・トラベラーは1000余りある世界遺産のうち、600近くを訪れている。これらを個別に説明する余裕は無い。今回は紛争や環境悪化などが原因でリストアップされている危機遺産のうち、訪問済みの主な世界遺産を紹介する。

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本年(2015年)6月28日からボンで開催された第39回世界遺産委員会で、危機にさらされている世界遺産として48件が記載された。そのうち、最も関心を集めているのがシリアのパルミラ遺跡で、筆者は1976年12月と、2000年6月の2度も見学している。シリアの首都ダマスカスの約290km北東に位置する遺跡だ。抜けるような青空の下、砂漠の中に忽然と現れる壮大な遺跡である。
 見どころ満載の遺跡のスタートになるのが、遺跡の入口に立つ記念門。その門ををくぐると、きれいな形で残る立派な列柱道路が真っ直ぐに伸びる。この遺跡のハイライトだ。この道を進むと左側に円形劇場、次に 4本の柱によって支えられる巨大な四面門に出る。遺跡の西側に広がる墓の谷では、ナボ神殿のために寄付したエラベル家の塔墓や、壁画が美しい3兄弟の地下墓室が見逃せない。遺跡の北側には、高さ150mの岩山にアラブ城砦がそびえる。この城砦から遺跡全体が眺望でき、夕陽を眺めるのに絶好のポイントでもある。

 シリアではほかに、古代都市ダマスカスアレッポ、十字軍が築いた最大規模の城塞クラックデ・シュバリエ、古代都市ボスラも危機遺産になっている。いずれもワールド・トラベラーは訪ねたことがあるが、なかなか見ごたえのある遺跡ばかりだ。特に、世界最古のモスクと言われる ダマスカスのウマイヤド・モスクは有名である。

  
1976年パルミラ遺跡を長男 ダマスカスのウマイヤドモスク ボスラのローマ劇場
 ・次男と共に観光する筆者                         に立つ世界の旅人


 シリアの近くでも危機遺産がいくつかある。例えば、最初にヨルダンが申請したが、イスラエル・パレスチナが領有を主張するエルサレムの旧市街と城壁群、イエメンのサナア旧市街とシバームの旧城壁都市がある。前者は1994年12月、後者は1998年4月に訪れている。

 有名なアフガニスタンの
バーミヤン大仏は、2001年2月に偶像崇拝を否定するイスラム過激派タリバンにより破壊された。筆者は2007年4月に現地に入ったが、高さ55mの西大仏も同38mの東大仏も共に見事なほどもぬけの殻でガッカリさせられた。バーミヤンはカブールの北西240kmほどに位置し、標高は約2500m。巨大な磨崖仏観光の基地で、7世紀の玄奘三蔵の「大塔西域記」にも記されている静かな佇まいの古都である。
 5世紀から6世紀頃には西大仏と東大仏の2体の大仏をはじめとする巨大な仏像が数多く彫られ、石窟内にはグプタ朝のインド美術やサーサーン朝ペルシア美術の影響を受けた壁画が描かれた。バーミヤーンの仏教文化は繁栄を極め、630年玄奘がこの地を訪れた時にも依然として大仏は美しく装飾されて金色に光り輝いていたとか。その後イスラム教徒の勢力がこの地にも及んだが破壊はまぬがれ、多くの壁画が残されていた。
                    −−− ワールド・トラベラーの旅スナップ −−−

  
イエメン:シバームを俯瞰   アフガニスタン:バーミヤン   マリ:トンブクトゥの
                                        
サンコレ・モスク

 紛争の多いアフリカでは、マリの北部の町トンブクトゥの世界遺産も危機遺産になっている。中央政府からの独立を求めるトゥアレグ族による武装蜂起、それに続いたイスラムの原理主義勢力による占領地の乗っ取り、そして事態悪化に対処するため介入したフランスなどの諸外国が入り乱れる紛争が原因だ。ワールド・トラベラーは1997年2月に現地を訪れたことがある。
 町は首都
バマコから北西へ900kmにあり、砂漠の民トゥアレグ族が多く住む。8世紀頃からニジェール川貿易で発展し、西アフリカの学術都市として繁栄。一時は「黄金の都」とも呼ばれ、数多くの探検家を魅了してきた。グランドモスクと呼ばれるジンゲルベル・モスク
かつては大学として知られたサンコレ・モスク、フランスの探検家ルネ・カイエの家などが見どころだ。

 
 
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 せっかく世界遺産に登録されても、その後の維持・保存に想定外の出費を強いられると聞く。また、内戦や紛争、環境の変化などで世界遺産の看板を降ろさざるを得ないケースも多いようだ。
 今回の明治日本の産業遺産の中にも、設備などの老朽化で危機遺産に該当するものが出てくる恐れがある。 いい事ばかりに見える世界遺産登録も、
傍から見るほどにいい事尽くめではなさそうだ。

 
                ◇◇◇  ご案内  ◇◇◇

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